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■ 5 海外路上デビュー!? 後編 | ||
◇海を越えた約束 息を切らして家に入ると、ドラムセットの持ち主でしおりさんの旦那さんのクリスと、もう一人のルームメイトのこういちさんが家に帰ってきていて、夕食の準備をしていた。 ひさしぶりに会話のある夕飯の楽しんでいると、三人目のルームメイトのしんさんからしおりさんに電話がきて、夕飯には間に合わないとのことだった。 夕飯後、こういちさんやひろしさんとの会話も弾んできて、ちょうどジャグリングの話題も出たので、しおりさんとの約束であるジャグリングを披露することになりました。 シガーボックスを披露するには少しスペースが足りなかったので手軽な3ボールを披露すると、三人とも手放しで喜んでくれて、公園での練習が生きました。 日本から持ってきた約束を果たした僕は達成感から少し調子に乗って、「本当は得意なシガーボックスを披露したかったんですけどね」と言った。 すると、「じゃあ、明日、ストリートパフォーマンスやってよ」という話になってしまい、僕は戸惑ってしまった。 確かにパフォーマンスするための道具と意気込みは日本から持ってきたけれど、これまでの旅の中で、良くも悪くもジャグリングと大道芸の“凄み”を知ってしまった僕は、どうしても人前に立つ気にはなれなかった。 ちょうど衣装だけがなかったので、その事とまだ、腕が未熟なことを引き合いに出してその話を終わらせたものの、何か引っ掛かったままの僕は、なかなか寝つけなかった。 このまま帰ったら後悔することだけは、はっきりしていた。 |
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◇浴衣とフェリーと誤算 少し遅めに起床すると、クリスとルームメイト3人はすでに出かけていた。 すばやく食事を済ませ、出かける準備を始める。 今日はしおりさんに近くの湖まで泳ぎにとフェリーに乗りに連れて行ってもらうのだ。 なにせ僕はオーストラリアに着てから、一度も泳いでいなかったので。 支度の際にも、しおりさんに「パフォーマンスしないの? ねぇ しようよ」と声を掛けられ、逃げるように衣装が無いことを強調する。 すると、しおりさんはどこかにいってしまった。 何かに拍車が掛かる。 しばらくすると、しおりさんは何か白い箱を持ってきて、中を開くとそこには浴衣が入っていた。 「これを衣装にしたらどうかな?」と言われて、とりあえず着てみることにした。 浴衣はしおりさんのもので、当然、女性用。 桃色のは、ガラじゃないので、青い浴衣に袖を通し、帯を巻いてみると、これがなかなか引き締まる。 おまけに、たすきがけできそうな帯まであったので、それで邪魔なところを止めるとパフォーマンスには何も支障がなくなった。 帯で腹を巻いたからなのか、それとも民族衣装を着たからなのか、妙に気分が落ち着き、気持ちが高ぶってきて、とうとう僕はパフォーマンスをすることに腹を決めた。 そして、浴衣とジャグリング道具、それと肝心の水着を持って泳ぎに出かるころにはお昼になっていた。 ホーンズビー駅から2駅移動する間に、しおりさんに「これからいく湖には子供がたくさん来ているから、きっと大丈夫だよ」という話を聞き、僕は昨日の体験を思い出して、少し自信が出てきて発言も明るくなる。 しおりさんもテンションがどんどんあがってくる。 パフォーマンスしたいと言われたので、日本語を英語にしてもらうのと、何かあったときに手伝って貰うことにしたのだ。 しっかりと桃色の浴衣を持ってきていて、衣装もばっちり。 そのうちに、今日のパフォーマンスの目標金額が10A$と言われて、倍のプレシャーを感じていると駅に着き、足早に湖へ向かう。 すると、予想に反して人がいない。 泳いでいるひとも2〜3人。 平日だからかと思いきや、夏休みなので子供はいるはずだとしおりさんは言った。 とりあえず、もう一つの目的であるフェリーに乗って時間が経つのを待ってみることにした。 快晴の空の下、良い雰因気を醸し出しているフェリーに乗り、作戦の練り直しをしていたが、さすがに予想もつかないことだったので、目標金額は5A$、2A$と軒並み値下がりしてしまった。 その後、しばらくの間、パフォーマンスのことを忘れてフェリーからの絶景を楽しみ、tea timeのクッキーと紅茶を飲みながらフェリーを満喫した。 再び元の場所に戻ってみても、人の数は増えずに、逆に片手で数え切れるぐらいになっていたので、パフォーマンスは断念して貸切状態の湖を泳いだ。 一泳ぎした後でホーンズビーに帰るときに、パフォーマンスできずにガックリしている自分がいる事に気づき、ホーンズビー駅でパフォーマンスすることにした。 |
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◇ジェイムス効果 駅に着き、しおりさんの家の方の出口の近くで場所を探す。 ちょうど通りに面したベンチなどがあるスペースがあったので、そこに荷物を置き、早速、衣装に着替える。 友人に借りた黄色いミニスピーカーにMDをつなげ、ボール3個とシガーボックス4個を取り出して、体を動かし始めた。 実は、一人でパフォーマンスをするのはこれが始めてなので、体がいつもより緊張して、道具がゼンゼン手につかない。 しおりさんの衣装の準備のでき、つぶれた帽子を前の方にさりげなく出して、音楽を流す。 予想以上に音が小さくて、全く人目を引く効果がない。 しょうがないので、地道にカスケイドしながら、日本語で人通りに呼びかけ、それをしおりさんが英語に変えて繰り返し呼びかける。 やはり駅前、人のスピードはなかなか落ちない。 「これは当然のこと、一人を“立ち止まらせる”のが大切だ」と自分に言い聞かせながら、呼びかける。 少しすると、女子高生2人がベンチに座って見てくれるようになり、続いてこれまた高校生ぐらいのカップルがベンチに座って見てくれるようになった。 僕はそっちの方向に向けてパフォーマンスをし始めると、小さな拍手が帰ってくるようになってきた。 不得意なボールを途中で切り、得意のシガーボックスの技を一通り見せると、カップルの男の子が少しジャグリングを出来るらしく、「やらしてみな!」と乗ってきた。 僕は彼にボールを渡し、道具入れの中から残りのボールを2個持ってきて、彼に教えようとしたら、さすがに自分で言うだけあって、カスケイドしていました。 そのまま色々と技を見せていると、なんと彼が通行人に呼びかけ客寄せをしてくれたのです。 しおりさんの話だと彼は「20セントで、ものすごい芸が見られるぞ!!」と言っていたそうです。 半ば強引に声を掛けていたようにも感じましたが、すごく通る声なのでそれだけでも注目が集まりました。 そのうち、自然に僕と横一列に立って、彼と二人でパフォーマンスする流れになりました。 ボール5個で、片方が3個でカスケイドしていて、2個持っているほうにパスして順々に何か技をしていく形でパフォーマンスが落ち着いてくると、自然に人がとまり始め、ついに帽子の中で金属が弾ける音まで聞こえてきました。 ここらかは、すべてがアドリブ、僕はここぞとばかりに直感的に考えたことをして笑いを誘っていました。 例えば、彼からのパスを口笛吹いていて見失ったふりをしたり、浴衣の懐を開けて「カモーーーン!!」と言ったり、わざとパスするタイミングをずらしたりしました。 イエスとノー、簡単な単語、それと数字しか言わなくても結構笑いがとれてました。 多分彼は僕に英語で色々と僕に注文をしていたと思うのだけど全然聞き取れなくて、タイミングが外れたりとかもしょっちゅうだったけれど、それまでも僕が変なジェスチャーをしてちょっとした笑いに変えていた。 |
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最後に彼がボールを置いたところで、僕もパフォーマンスを終わりにした。 お客さんに何度も御辞儀をして、彼と握手をして名前を聞いた。 「ジェイムス」という名前で、僕はジェイムスをお借りした彼の彼女にも御辞儀をして、ほっと一息つくと、そこにはルームメイトのしんさん、こういちさんがいた。 それにクリスも見ていてくれて、お金も入れてくれたらしい。 みなさんに見てもらって、しかもお金まで入れてもらって凄く嬉しかった。 こういちさんにジェイムスとしおりさんとのパフォーマンスの記念写真を撮ってもらったあと、ジェイムスと別れた。 そのほかにも、しおりさんの知り合いの日本人のおばさんや今日オーストラリアに着いたばかりの日本人の女の子も見ていたらしい。 興奮が冷めてくると、今度は恥かしさで熱くなってくる。それを、片付けをしてごまかす。 浴衣もほとんど帯の意味がないぐらい乱れていた。 あっという間の30分であった。 ユメのような30分。 冷静になって考えてみると、落としまくりのパフォーマンスであったけれど、ジェスチャーで笑わせられたことと突然アドリブなっても、ちっとも慌てずに楽しんでやれたことが評価できると思う。 しおりさんの勧めに逃げずに、パフォーマンスして本当に良かった。 しおりさんの家に帰ってきてから、今日のパフォーマンスの結果を数え始める。 帽子に貯まった大小のお金。 合計金額はなんと10A$ぴったりで、どうやら目標金額は達成したようだ。 しかし、20セントが多いのは気のせいだろうか? |
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